TOTTEOKI STORIES

2020.11.06

中間発表会 パート2 「クラフト」

クラフトの分科会には、西海陶器株式会社、株式会社UNAラボラトリーズ、株式会社TCI研究所、株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションの4チームが集まった。そこにアドバイザーとして同席したのは、インバウンド客向けのラグジュアリーな旅行を企画・提供するthe Art of Travel社のカイル・オピッズ氏と、文化や歴史に触れる体験型ツアーなどを企画・提供する奥ジャパン社のアダム・ダンハム氏だ。ディスカッションのテーマは、4チームが提供しようとしているツアーの“商品企画をブラッシュアップする”こと。こうテーマ設定をしたのは、日本の観光業界・旅行市場では多くの観光地がコモディティ化しており、旅行客向けに用意されている商品が「どこにでもある」「特徴のない」「わざわざ行く価値がない」ものになってしまっている状況があるためだ。いかに商品企画をブラッシュアップし、コモディティ化を脱して「他のどこにもない」「その地域や商品を目指して」「わざわざきていただく」ことができるかが商売の成功につながる。

ディスカッションでは、4チームが企画しているツアーについてそれぞれ説明し、その後、アドバイザー2人とともに分科会のメンバー全員が参加するかたちで質疑応答を行った。

なぜ観光客が“そこ”を目的地として選ぶのか

現在企画中のクラフトツーリズムについて最初に説明に立ったのは、長崎県波佐見町で波佐見焼という陶磁器を扱う西海陶器。波佐見焼がブランドとして立ち上がったのは2003年頃だが、実際には約400年前の1599(慶長4)年から陶磁器を焼くための窯が波佐見町にできた。そこから陶磁器の生産が始まり、江戸時代後期には染付の生産が日本一になるほど陶磁器の一大生産地として発展した。現在、西海陶器は、3~4時間かけて波佐見焼の製造工程を見学・体験したり、波佐見焼の器での食事ができる1万5千円のツアーのほか、ラグジュアリーバスで福岡・波佐見間を往復する4万円のツアーも提供している。

ただ、波佐見町の周りには佐賀県有田市、同伊万里市、同唐津市があり、これらの産地と比較すると波佐見焼のブランド力や認知度は相対的に劣る。そこで西海陶器としては、有田市などを訪れる人のセカンドデスティネーションとしてのポジションも狙いながら、温泉地として知られる佐賀県武雄市や同嬉野市を含めた近隣の地域と連携を図り、互いの送客など観光客に周遊してもらう模索を進めているという。

西海陶器の取り組みに対して、アダム氏から、「例えば一風変わった形の器を作っているなど、観光客が喜ぶような波佐見焼ならではの特徴はあるか」との質問が投げかけられた。西海陶器チームの見立てでは波佐見焼には特徴がある。それは職人による鋳込みという手法で大量生産されるものとして、波佐見焼が産業として成り立っていて、いわゆる陶芸家が作る一品物の器とは異なるということだ。

アダム氏は「それを強調すればいいと思う。他の地域との差別化できるものを作るといい。私たちは社内で“カスタマージャーニー”についてよく話すが、お客さまはどういう流れで行き先を選ぶのか。メインはGoogle検索になるので、potteryとkyushuで検索する人は、どのように行く地域を選ぶのか。それを考えたとき、差別化できないと難しい。『波佐見はこういう特徴の焼き物で、こういう体験ができます』というようなことが分かる外国語のWEBサイトがあるといいだろう」とアドバイスした。

アダム・ダンハム氏

次に説明の順番が回ってきたのは、九州のトラベル・デザイン・ファームとして久留米絣や唐津焼などの体験プログラム開発などを行うUNAラボラトリーズ(以下、UNA)だ。UNAの強みは九州の地元に根差した工芸産地や個性的な作家とのつながりで、そのパイプを生かして開発しているのが、2万円弱で久留米絣の手織り体験できるプランや、約1万円で唐津焼の健太郎窯での“絵付け”と“焼き”をセットで体験できるプランだという。

カイル氏からは、「焼き物体験では、職人と話すチャンスはあるか」との質問が出た。カイル氏の見解では、体験プランのチャレンジはお客さまにあまりスキルがないことであり、「例えば私は先日、宮城でこけし作りの体験をしたが、出来がひどくてすぐに捨ててしまった。工房での体験を求めているお客さまはほとんどいなくて、職人と会話をしたり、いいものを買うことに価値を見出している」という。
UNAによれば、唐津での焼き物体験では職人と会話できる時間が設けられており、それが彼らの体験プランの売りだとしている。「焼くのに1時間くらいかかるが、その間、唐津の海が一面に広がるギャラリーで次世代を代表する作家の方と話をして、唐津焼や日本文化に対する思いを聞きながら、ギャラリーで買い物ができる」。

ただ、そこには課題がある。インバウンド客とのコミュニケーションとなると外国語になるが、職人が流ちょうに外国語を話せるわけではない。「基本的にそれぞれの職人は外国語を話せません。弊社の米国人スタッフが、日本語で話すことの訳をテキストで作って、それを使ったりしながらやり取りすることを考えています」(UNA)。この点についてアダム氏は、「歴史や背景はテキストなどで用意はできるが、特別感を出すためにも、口頭で話したらもっと感覚的に感じられると思う」と指摘した。

カイル・オピッズ氏

コバンザメ作戦で周遊客の宿泊需要を取り込みたい

3番目に説明したのは、京都の和傘工房・日吉屋を母体とするTCI研究所(以下、TCI)だ。TCIは、日吉屋が培ってきた京都の職人たちとのつながりをもとに、京都市内で様々な職人の工房を回るツアープランを企画している。そのプランを見てもらおうと、提携している旅行会社の担当者を案内したとき、彼らの反応を見て興味深いことに気づいたという。

「織物や陶芸の工房を回りましたが、彼らが面白いといったのは、その職人さんが面白いかどうか。例えば、ある女性の陶芸家が陶芸の窯元を継承するとき、父親から『同じことはやるな。お前の世界を探せ』と言われ、10年くらいかけて自分の技術を探し、新しい技術を自分で生み出して、それを作品にして販売するようになった。彼らによれば、その考え方やスタイルが面白いと。技術どうこうではなく、どんな考え方でそれをやっているのかがすごく魅力的にうつるということを理解した」(TCI)

こうした取り組みを進めているTCIに対して、久留米絣や唐津焼の体験ツアーを提供しようとしているUNAから、「これは個人旅行ですよね。通訳はどうしているのか」との質問が寄せられた。TCIは「提携している旅行会社に通訳を付けてもらうか、あるいはガイドが通訳もできる状態を想定している」と答えた。

インバウンド客を対象としたツーリズムでは言語の問題は避けては通れない。アダム氏によると、旅行会社ごとにガイドの手配のスタイルは異なる。例えば奥ジャパンは旅のストーリー性を重視し、旅の最初から最後まで一人のガイドを通しでつける。それに対してthe Art of Travelは、地元のガイドがベストな知識で案内してくれるという考えから、現地ごとにそれぞれ外国語が話せるガイドを手配しているという。

最後は、瀬戸内地域の観光産業の活性化を支援している瀬戸内ブランドコーポレーション(以下、瀬戸内)の取り組みだ。瀬戸内はクラフトツーリズムそのものを扱っているわけではないが、観光を切り口に地域活性化を図ろうと、広島県庄原市や愛媛県内子町で古民家を格安で買い取り、高級宿に改装。そこに宿泊客を呼び込もうとしている。瀬戸内としては、物件はこれから増やしていく予定だ。

とはいえ、庄原市と内子町はいずれも観光資源には乏しく、それぞれを旅の主な目的地に設定する旅行客はほとんどいないのが現状だ。「これらの場所を目的として選ぶシナリオが気になる。古民家の生活を楽しみながら、そこでの文化体験をすることなのか、あるいは魅力的な宿泊地として周遊客に選んでもらうのか」というところに質問が及ぶと、瀬戸内からは「ここを目的としてくることは絶対にありえない。例えば庄原の場合は、東京からラウンドトリップで箱根、京都、広島へ行ったついでに庄原に来てもらい、庄原から北に抜けて出雲や松江へ行ってから東京に戻る。内子も同じで、両方ともコバンザメ作戦でやろうと考えている」とのアイディアが出された。

4社4様のツアー企画があるが、これらの企画はまだ完成形ではない。分科会のディスカッションで得たアドバイスをもとに、最終発表会に向けてさらに磨きを変えていく。